研究概要 |
様々な感染症により惹起される敗血症は近年増加しており、多臓器不全に至る症例では致死率が高い。以上の病態はIL-I,IL-6,IL-18などの炎症性サイトカインを介した全身性炎症反応症候群(SIRS)によって惹起される。一方、生体には敗血症の進展を阻害する生体防御機構が備わっており、たとえば炎症時に誘導されるヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)はSIRS病態を制御することで多臓器不全の進行を遅延させることが知られている。そこで今回、エンドトキシン(LPS)により敗血症を惹起したマウスを用いて、炎症病態におけるHGFによるHO-1誘導促進の可能性と、その意義について解析を行った。 健常マウスにLPSを投与したところ、血中IL-1,IL-6,IL-18濃度が著しく上昇した。LPS投与後腎臓、肺、肝臓を組織学的に精査したところ、各臓器ともに炎症像、血栓形成といった所見が顕著に観察され、これに一致して多臓器不全が進行した。そこで、LPS処置マウスにHGFを投与したところ,LPS投与後尿細管上皮、肺・肝のマクロファージでのHO-1発現が高まること、HGFはLPSによるHO-1発現をさらに数倍に高める事が明らかとなった。以上に一致して、LPSによる血中IL-1,IL-6,IL-18濃度の上昇はHGFにより顕著に抑制された。その結果、各臓器のinjury scoreはHGF投与群では有意に低下していた。最後にHGFによるHO-1産生促進の意義を明らかにする目的でLPS投与マウスに、HGFとともにHO-1阻害剤(SnPP)を皮下投与した。その結果、HGFによるIL-1,IL-6,IL-18産生阻害効果はHO-1阻害剤により解除される事が明らかとなった。HGFはLPSマウスに必見される腎・肺・肝の組織傷害を強く抑制するが、このような臓器保護作用はHO-1阻害剤によって減弱されていた。 今回の解析から、HGFはLPSが標的とするマクロファージに作用してIL-1,IL-6,IL-18産生を抑制することが浮きぼりとなった。即ち、HGFは敗血症初期相ではHO-1と連携して、SIRSを特徴づける高サイトカイン血症そのものを阻止する事により、来るべき多臓器不全の発症を事前にブロックしていると考えられる。
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