敗血症病態において腎傷害は致命的な病態イベントとなりうる。そこで本年度は敗血症病態における腎傷害に着目し、マウス疾患モデル動物を用いてHGFによる腎保護機構を下記の通り解析した。 1. 敗血症病態における蛋白尿発症機序について解析を行った。その結果、炎症性サイトカインであるIL-1βの産生亢進がLPS投与後12時間目にマクロファージ(Mφ)を中心に観察され、投与後24-36時間にかけて糸球体ポドサイトにおいてスリット分子であるネフリンの産生抑制が認められた。この時、ネフリンの転写促進因子であるWT1の核内発現は減弱していた。これに一致してアルブミン尿の排泄が顕著となった。以上の成果はBiomed Research 31:363-369 (2010)に公表した。 2. 次いで敗血症病態における蛋白尿漏出に対するHGFの効果を検討した。LPS処置マウスにHGFを投与すると、MφでのIL-1β産生が抑制され、ネフリンの産生抑制が軽減された。さらにポドサイト自身にHGFシグナル伝達を示すc-Metチロシンリン酸化が認められた。その結果、HGF投与群では炎症時に惹起される炎症性酵素、カテプシンLの誘導は抑制され、その基質であるシナプトポディン(PSD)の分解も緩和される事が判明した。以上の成果はNephrology 16:310-318 (2011)に報告した。 3. その一方で、ヒトHGFを動物に反復投与すると、蛋白尿が惹起されるという知見も相次いでおり、HGFによる蛋白尿抑制効果を疑問視する報告も見受けられる。私達はヒトHGFがラットに対して抗原性を持つ事に注目し、免疫介在性糸球体腎炎によるpseudo-toxicな効果である事を実証した。実際、抗原性を持たないラットHGFをラットに長期間投与しても免疫複合体の沈着は認められず、重篤な蛋白尿も惹起されない事を実証した。以上の成果はClin Exp Pharmacol Physiol 38:192-201 (2011)に報告した。
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