エイズ/ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)感染症の克服に貢献することを目的に、昨年度から、in vivoではヒトの免疫機構を構築したヒト化マウスを用いて、HIV-1感染を効果的に防御/制御しうる新規エイズ医薬品の開発を推し進めている。本年度は、医薬品候補として創製された新規組換え水庖性口内炎ウイルス(VSV)及びHIV-1侵入阻害剤であるケモカイン受容体(CXCR4)アンタゴニストの実効性を評価した。前者は、VSV G遺伝子の代わりに、HIV-1受容体や接着分子をコードする遺伝子がゲノムに組み込まれた組換えウイルスである。後者は、HIV-1補助受容体であるCXCR4に競合的に結合し、HIV-1が細胞内侵入のためにCXCR4を利用するのを妨げる化合物である。組換えVSVは、in vitroにおいてHIV-1野生株(実験室適応株)が感染したT細胞株やヒト末梢血単核球(PBMC)を特異的に殺傷し、その結果HIV-1感染増殖を著明に抑制することができた。またこの効果は、接着分子の追加発現により有意に増強された。次に、PBMCを重度免疫不全マウスに移植しヒト化マウスを構築した後、CXCR4アンタゴニストを予防的に投与し、HIV-1野生株(実験室適応株)を感染させたところ、コントロール薬剤に比べ、CXCR4アンタゴニストは顕著に感染増殖を抑制することが分かった。このように、今回用いた医薬品候補は高い有効性を示した。今後はさらに、実験室適応株だけでなく、多剤耐性株を含めた臨床分離株のHIV-1感染に対しても、効果を検討していく。今回の成果は、上記の医薬品候補がこれまでの薬剤とは異なった作用機序を持っているので、現在の薬剤では防御/制御困難な多剤耐性株等のHIV-1感染に対しても効果を発揮する可能性を示唆しており、将来的に医療・福祉への貢献に繋がると考えられ意義がある。
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