癌は体細胞に生じた遺伝子病である。染色体構造の不安定性により生じた遺伝子増幅は癌遺伝子を活性化する機序のひとつである。われわれは、肝細胞癌の特定の染色体領域に生じたDNAコピー数変化(遺伝子増幅あるいは欠失)を検出し、その異常を解析することで肝細胞癌の発生・進展機序を明らかにし、さらには治療の標的分子を同定することを目的に研究を進めている。 今年度は、全ゲノム領域を高密度(約25万ヵ所)にカバーするオリゴヌクレオチド・プローブを搭載したGeneChip250Kアレイ(Affymetrix社)を用いて、20種類の肝細胞癌細胞株に生じたDNAコピー数変化を定量し、遺伝子増幅および欠失領域を検出した。そのうち、2種類の細胞株に共通した新規の遺伝子増幅を染色体17p11領域に見出した。FISH(fluorescence in situ hybridization)法による染色体標本上での観察でも同領域の遺伝子増幅を確認した。最小の共通増幅領域(amplicon)を限局化し、そのamplicon内にある遺伝子すべてについて解析した結果、ERK5遺伝子の発現が増幅メカニズムによって亢進していることが判明した。すなわち、MAPキナーゼの一員であるERK5遺伝子が17p11遺伝子増幅の標的遺伝子であると示唆された。
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