癌は体細胞に生じた遺伝子病である。染色体構造の不安定性により生じた遺伝子増幅は癌遺伝子を活性化する機序のひとつである。肝細胞癌において、DNAコピー数変化(遺伝子増幅あるいは欠失)が発生した特定の染色体領域を検出し、その領域から、癌の発生・進展に関与し、さらには治療の標的となる分子を同定することを目的に研究を進めている。 昨年度までに、肝細胞癌手術検体34例と肝細胞癌細胞株20株を対象に、全ゲノム領域を高密度(約25万ヵ所)にカバーするオリゴヌクレオチド・プローブを搭載したGeneChip250Kアレイ(Affmetrix社)を用いて、肝細胞癌に生じたDNAコピー数変化を網羅的に解析し、第番染色体短腕17p11領域に新規の遺伝子増幅を発見した。FISH(fluorescence in situ hybridization)法とPCR法で同領域の遺伝子増幅を確認し、最小の共通増幅領域(amplicon)を750kbの範囲に限局化した。そのamplicon内にある遺伝子すべてについて解析した結果、MAPキナーゼの一員であるERK5遺伝子が増幅メカニズムによって発現亢進していること、すなわち17p11増幅の標的遺伝子であることが判明した。 今年度は、肝細胞癌におけるERK5遺伝子の機能解析を行った。siRNAを用いたノックダウン実験の結果から、ERK5は、細胞周期のG2/M期にリン酸化されて活性型になり、細胞周期M期へ進行を加速することで、肝癌細胞の増殖を促進することを明らかにした。
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