ヒトFOXP2は、マウスFoxP2との比較では3か所のアミノ酸の違いしかなく、また、チンパンジーとは2か所のアミノ酸が違うだけの、高度に保存された転写因子をコードした遺伝子である。ヒトが言語を獲得したのはこのFOXP2遺伝子の変化によることが示唆されている。従って、この転写因子の機能を明らかにすることは、言語を科学的に解析するために非常に有用であると思われる。 ヒト言語能力特異的な遺伝子を単離するために、FOXP2転写因子の脳内ターゲットの探索を目的として、まずヒトFOXP2の完全長cDNAを得た。しかし、クローニング中にさまざまな変異や欠失などのトラブルが生じたため、予定より実験が大幅に遅れてしまったが、最終的に塩基配列解析で正しい正常ヒト完全長cDNAを得た。また、in silico的に、3つのFOXP2アイソフォームを認めたが、ヒトのみORFが続く一つのアイソフォームを認めた。このアイソフォームは余分にexonを保持している。このアイソフォームの余分のexonを上記のヒトFOXP2の完全長cDNAに組み込みアイソフォームの完全長cDNAも作成した。 現在、ヒトFOXP2、KE家族(言語障害型)変異FOXP2、チンパンジーFoxP2、ヒトFOXP2アイソフォームの完全長cDNAを得ている。この完全長cDNAを、ハイグロマイシン耐性化遺伝子を持った発現ベクターにクローニングした。また塩基配列解析により、正しくクローンが作成されていることを確認した。さらに、これらの発現クローンをtransgeneとして293細胞株に導入し、いくつかのハイグロマイシン耐性クローン細胞を得ている。今後、RT-PCRやWestern法によりFOXP2が過剰発現しているクローンを選び出す予定である。それぞれのFOXP2発現量が十分でほぼ同等だと確認された293細胞と空ベクター導入293T細胞から全RNAを抽出し、アレイによる解析を行う予定である。大変遅れてはしまったが、当初の計画を行っており、本年度ちゅうには一定程度の成果がでるものと考えている。
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