本研究の目的は、がん間質に動員された間葉系前駆細胞の起源およびそれらの細胞が、腫瘍進展に関わる分子機構を解明することである。各種臓器間質より線維芽細胞を分離培養し、どの細胞画分に間葉系前駆細胞が多く含まれているか、およびそれらががん進展に及ぼす影響をSCIDマウス移植モデルを用いて検討した。結果を以下に記す。 1)ヒト血管外膜組織、がんに流入する血液(肺癌切除材料における肺動脈内)内に、間葉系前駆細胞が多く含まれていた。一方、肺組織、あるいは肺癌組織には、間葉系前駆細胞は殆ど含まれていなかった。 2)ヒト血管外膜由来間葉系前駆細胞は、腫瘍(肺癌細胞株A549)の生着を亢進させた。一方、がんに流入する血液由来間葉系前駆細胞は、腫瘍の生着には影響を与えなかった。 3)ヒト血管外膜由来間葉系前駆細胞を、脂肪/骨分化誘導後、腫瘍の生着に与える効果を検討した。脂肪/骨分化誘導後の細胞も、間葉系前駆細胞と同様に、腫瘍の生着を亢進させた。 以上より、間葉系前駆細胞が腫瘍進展に与える影響は、由来臓器により異なっている可能性が示唆された。また、ヒト血管外膜由来間葉系前駆細胞の未分化状態維持機構が、腫瘍進展に影響を与えている訳ではないことが示唆された。現在、cDNA microarrayを用いて、原因分子の探索を行ない、ヒト血管外膜由来間葉系前駆細胞に発現するPodoplaninが、機能分子として腫瘍の生着に寄与していることを見出している。
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