研究概要 |
我々はこれまでに(1)大腸癌の多くの症例(約70%)においてmiRNA-143、-145の発現が著明に低下している(研究業績論文(1)(17))。さらにmiRNA-143、-145が癌抑制マイクロRNAとして機能していることが判明した(論文(1)(3)(4)(13)(17))。大腸腫瘍のポリープにおいても約70%の症例において発現の低下がみられ、miR-143、-145が腫瘍形成の早期に関与していることが明らかになった(論立(1))。(2)miR-143低発現による発癌機序の1つとしてmiR-143が増殖関連のERK5を標的にしていることが確認された、その他Akt、Fibronectinが示唆されている(論文(1)(3)(4)(13)(17))。(3)miR-143、-145はヒト染色体5番q33に局在し、1.7kbしか離れていない。組織の発現様式から、同じprimary miRNAとして転写されると考えている。最近、これらが同じホスト遺伝子に局在していることを確認した(図1参照、論文(1))。(4)miR-143の2本鎖のパッセンジャー鎖の構造を変えて効果を検討した結果、3'側の2カ所のミスマッチをマッチさせた5'側openな構造が最も細胞増殖抑制活性が強かった。RNase耐性の検討では3'側にベンゼン-ピリジン(BP)を修飾した修飾miR-143BPが市販のものより6-8倍安定であった。BPが疎水性アミノ酸の多いAgo2のPAZドメインに入ると考えられており(SongJJ, et al.Curr.Opin.Struct.Biol, 2006)(図2参照)、BP修飾により活性が上昇すると考えられた(論文(1))。(5)BP修飾miRNA-143、-145を用いて坦癌ヌードマウスに腫瘍内投与および全身投与を行なった結果、in vitro同様いずれも腫瘍縮小効果を認めた。薬剤搬送システムとしてはリボゾーム(HSS ; LipoTrust)を用いた。miR-143BPの全身投与による効果はマイクロRNAでは世界ではじめての報告である。(論文(1))(図3参照)miR-143、-145は大腸癌のみならず乳癌、肺癌、胃癌、前立腺癌、子宮頸癌、B細胞腫瘍などで発現が低下しており、多くの癌において共通のがん抑制マイクロRNAであることが示された。
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