研究概要 |
我々はこれまでに大腸腺腫(87例)、癌(89例)、さらに家族性大腸ポリポーシスの患者6例の腫瘍サンプルからmiR-143、-145、-34aの発現が低下しており、がん細胞の増殖に関与する複数のカスケードに対して抑制的に働くことを明らかにしてきた。miR-143、-145、-34aは多くのがんでがん抑制遺伝子として働いているため、アゴニストとして投与すれば各種の癌で治療効果が期待できる。我々はmiR-143、-145が坦癌ヌードマウスにおいて全身投与にて腫瘍縮小効果を示したことを報告した(Cancer Gene Ther, 2010 ; Mol Ther, 2010)。 我々は大腸腫瘍のみならず胃癌においてもmiR-143 -145の発現が低下していることを報告した(Oncology, 2009)。これまでの報告から、消化管腫瘍で特に高頻度に発現低下していることが明らかになってきた。miR-145の遺伝子座の上流にはp53の結合領域があり(Schdeva M, et al. Proc Natl Acad Sci USA, 106 ; 3207-12, 2009)、p53によって発現制御されることが明らかになった。また、miR-145はがん遺伝子c-MYCを標的にしていることから、miR-145を介して代表的ながん遺伝子とがん抑制遺伝子が制御されていることが明らかになり、その観点からmiR-145はクローズアップされている。miR-143、-145は5q33の同一のNCR143/145転写産物されることを突き止め、この転写産物の発現ががんで低下していることを報告した(Mol Ther, 2010)。これまでの研究の成果は、充分に理解されなかった大腸腫瘍発生および癌化の根幹のメカニズムを解明し、さらに臨床応用への基礎となることからきわめて意義深い。
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