研究概要 |
悪性胸膜中皮腫の患者の胸水中ではTGF-βの濃度が上昇することが知られており、TGF-βの悪性中皮腫細胞に対する細胞増殖促進能が示唆されている。 正常中皮細胞をトランスフォームしたMet-5Aおよび、患者由来悪性胸膜中皮腫細胞をTGF-β処理したところ、細胞内でのSmad2のリン酸化およびERK1/2の活性化を認めた。Met5AにおけるTGF-β処理後2時間でリン酸化を受けるタンパク質をPhospho-kinase profiler Array(R & D社)を用いて調べると、ERK1/2の他、p38α,MSK1/2,CREB,STAT3などのリン酸化の上昇が認められた。マイクロアレイを用いた実験によって、TGF-βによって引き起こされる遺伝子発現の変化を調べると、上昇する遺伝子群のなかに、MMP-2、Collagen Type I α、CTGF、fibronectinなどが含まれており、またIL-1の発現の低下などが認められた。TGF-βによるこれらの遺伝子の上昇、低下はそれぞれTGF-β阻害剤によって抑制される。更にTGF-β阻害剤によってMet-5Aおよび悪性胸膜中皮腫の増殖は、単層培養系、軟寒天培地培養系双方において阻害されることがわかった。 最近我々は、NF2によって機能が負に調節されるタンパク質YAP1がこのTGF-βによる悪性中皮腫の細胞増殖に関与している可能性を見出した。YAP1は、我々が樹立した細胞株でも、増幅が確認されている。悪性中皮腫細胞におけるTGF-β,Smadシグナル伝達系が、YAP1によってどのように制御されているかを検討中である。
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