本研究の目的は、悪性中皮腫罹患患者の胸水中に高濃度で存在することが報告されているTGF-βが、悪性中皮腫の細胞増殖に関して、どのような役割を発揮するかを検討し、更にTGF-βシグナル伝達系の関与および下流制御分子との相互作用を明らかにすることによって、TGF-βシグナル阻害剤が悪性中皮腫治療に有効であるかどうかをin vitro、in vivoレベルで明らかにすることにある。 当該年度の研究では、我々は悪性中皮腫のTGF-β依存的な遺伝子発現の変化を調べ、上昇する遺伝子群のなかに、MMP-2、Collagen Type I alpha、CTGF、fibronectinなど細胞外基質として知られるたんぱく質が多数含まれていることを見出した。更にTGF-β阻害剤によってMet-5Aおよび悪性胸膜中皮腫の増殖は、単層培養系、軟寒天培地培養系双方において阻害された。更にNF2によって機能が負に調節されるタンパク質YAPがこのTGF-βによる悪性中皮腫の細胞増殖に関与している可能性を見出したが、YAPとSmadがCTGF遺伝子のプロモーター上で複数の転写因子とともに複合体を形成し転写調節を行うことについて、証明することができた。また、CTGF(connective tissue growth factor)の発現を欠失させた悪性胸膜中皮腫は、軟寒天培地のなかでのコロニー形成能が著しく低下することを見出し、CTGFが悪性中皮腫の増殖に強く関与することが示唆された。
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