我々はマラリア感染において、免疫学的特異性を無視した病原体非特異的な免疫応答を起こすことを見出した。免疫学的特異性という免疫学的基本性質が守られなければ、侵入病原体と全く無関係な免疫応答が起こり、自己免疫疾患などの原因となりうる。またマラリアに罹患しても免疫が出来にくく、このためワクチン開発をより困難なものにしている。この免疫が成立しにくい性質と病原体非特異的な免疫応答という性質がどのように関連しているのかを追究した。 まず、ある抗原に対して既に成立した免疫記憶に対し、マラリア感染がどのようにこの免疫記憶に影響を及ぼすのかについて検討した。まずマウスに対し、感染後に強い免疫記憶が生じることで知られているリステリア菌を感染させ、その2ヶ月後に弱毒ネズミマラリア原虫Plasmodium berghei XAT株を感染させ、リステリアに対する免疫記憶がマラリア感染によってどのように変化するかを検討した。すると、マラリア感染マウスが生産するリステリア特異的T細胞から生産されるIFN-γがマラリア感染マウスにおいて著明に低く、またマラリア感染マウスは体内からのリステリア菌の排除能が極めて低下することが確認された。以上の結果から、マラリアで観察される非特異的免疫応答への影響は、マラリア原虫に対する免疫記憶の形成能がきわめて低いことだけでなく、他の病原体に対する免疫記憶の形成能もきわめて低下するという現象が認められた。
|