含硫アミノ酸分解酵素メチオニンγ-リアーゼ(MGL)の反応メカニズムを理解するため、酵素・基質反応中間体を作成し、その構造を結晶レベルで明らかにすることを試みた。メチオニンの誘導体であるトリフルオロメチオニン(TFM)はMGLによって分解されて殺アメーバ作用をもつことが分かっている。始めにMGL-TFM反応中間体の作成を試みたが成功しなかった。しかしメチオニンとの反応中間体は複数作成でき、それらを並べると反応過程を約8種類に区分することができた。他の酵素と比較しても、反応過程をこれほど詳細に結晶レベルで観察できたのは初めてである。 TFMをリード化合物として薬剤開発を行う上で、TFM耐性のメカニズムを明らかすることは重要である。私たちは赤痢アメーバ原虫に微量のTFMを加えて培養を始め、その後段階的に濃度を上げてTFM耐性株を作出した。この株ではIC50が154倍に上昇した。TFM耐性株に対する既知の薬剤の感受性を調べたところ元の株と大差がないことが分かった。このことはTFMが既知の薬剤に対する耐性株(現在は明確な耐性株は見られないが薬剤が効きにくいケースは報告されている)に対しても有効であることを示している。TFM耐性株でMGLを調べるとほぼ完全に発現が抑制されていた。MGLは、多量のアミノ酸が培地から供給されるin vitro培養条件下では必須な酵素ではないが、酵素活性の特異性から生体内では重要な役割を担うと考えられる。したがって私たちは、TFM耐性は野外では簡単には出現しないと予想している。メチオニンがMGLによって分解されると、分解産物の一部はS・メチルシステインへと代謝される。メタボロミクスの結果から、その後の代謝産物と思われる候補分子を数種類発見した。構造で不明であるが、全く新規の代謝系につながる可能性をはらんでおり、今後もこの研究を続けたいと考えている。
|