細胞内寄生原虫トキソプラズマは日和見感染症を惹起する我が国でも代表的な人獣共通感染症であり、妊産婦における胎盤を介した胎児への急性トキソプラズマ症は胎児の奇形・流産・死産の原因となる。急性感染時には原虫が宿主のマクロファージや組織細胞内で増殖し、この時増殖ずる原虫から分泌される複数の虫体成分や原虫が細胞に接触により刺激を受けた宿主細胞はケモカインやサイトカイン等を産生し防御を行う。しかしこの生体防御反応が亢進し続けると宿主細胞自体への細胞傷害を引き起こし病態形成に到る。マスト細胞は、IgEを介した即時型アレルギー反応を引き起こすエフェクター細胞であり、様々なアレルギー疾患や自己免疫疾患の発症・病態形成に関与しているが、最近では自然免疫の活性化及び獲得免疫両方の分野においてマスト細胞が感染防御に重要であるとの報告もされている。マスト細胞は全身の皮膚・粘膜および血管周囲に分布し、腫瘍壊死因子の主要産生細胞である。これまでの感染実験から本原虫感染急性期においては、全身性の炎症反応が起こっていることから、この炎症反応におけるマスト細胞の役割について着目した。トキソプラズマ感染においては特異的なIgE抗体の産生はほとんど観察されないことから、IgE非依存性経路によるマスト細胞活性化について、マスト細胞欠損マウスと野生型の対照群のマウスに1x10^5の原虫を腹腔内接種し、接種後の腹腔内のマスト細胞数、好中球数について比較すると、感染後1時間から対照群においてマスト細胞が腹水に検出された。 好中球数も対照群の方が視野当りで増加していた。マウスの死亡曲線では対照群の方がマスト細胞欠損群よりも先に死亡が観察されたことから、炎症反応の過剰亢進にマスト細胞が関与していることが示唆された。現在、病理標本作製と骨髄由来マスト細胞を欠損マウスに細胞移入し同様な現象が見られるか実験を行っている。
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