赤痢アメーバには、形態的に区別できないEntamoeba disparやE.moshkovskiiなど近縁のEntamoeba種も存在するため、正確に同定することが早期に治療を開始するためにも重要である。また、種同定だけでなく、感染経路や地理的由来の解明につながるような、赤痢アメーバ株の多型解析法を確立することが現在望まれている。赤痢アメーバの虫体表面には、研究代表者らが同定した接着に関与するシステインリッチな蛋白質Igl(intermediate subunit of Gal/GalNAc lectin)が2つ存在しており、本研究課題において、それぞれに多型が存在することを明らかにしつつある。今年度は、病原性のないE.disparにおいて、地理的由来の異なる3株についてIgl遺伝子を解析した。その結果、赤痢アメーバ同様にそれぞれの株で2つのIgl遺伝子が存在し、Igl1とIg12を明確に区別することができた。E.disparのIgl1では赤痢アメーバのIgl1に比べて、多型が限定されていた。一方、E.disparのIgl2ではIgl1よりも多型性が大きいものの、赤痢アメーバのIgl2、Igl1に比べると小さいものであった。多型の度合いとその領域は、Igl1とIgl2の間、及び種の間で異なっており、それぞれの遺伝子が異なった進化的歴史を経ていることが示唆された。赤痢アメーバとE.disparにおける系統樹解析から、2つのIgl遺伝子は共通先祖において遺伝子重複していたのではなく、それぞれのアメーバ種において独立に遺伝子重複がおきたと推定された。また、最近新たに同定されたE.nuttalliのP19-061405株において、Igl1と考えられる遺伝子をクローニングし、塩基配列を明らかにした。また、ノーザンプロット解析を行った結果、E.nuttalliにおいても2つのIgl遺伝子が存在することが確認された。
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