赤痢アメーバには、形態的に区別できないが病原性のないEntamoeba disparなど近縁のEntamoeba種も存在するため、正確に同定することが早期に治療を開始するためにも重要である。また、種同定だけでなく、感染経路や地理的由来の解明につながるような赤痢アメーバ株の多型解析法を確立することが現在望まれている。赤痢アメーバの虫体表面には、研究代表者らが同定した接着に関与するシステインリッチな蛋白質Igl(intermediate subunit of Gal/GalNAc lectin)が2種類存在している。本研究課題ではこれまでに、赤痢アメーバとE. disparについて、Iglの多型を明らかにしてきた。今年度は、E.nuttalliに関して解析を行った。このアメーバは研究代表者らがネパールのアカゲザルから分離同定し、赤痢アメーバとは別種であることを明らかにしたものである。今回、新たにインドのアカゲザルやわが国に分布するニホンザルなど、Macaca属の異なる種、あるいは同種でも異なる地域に分布するマカクについて、腸管寄生アメーバの感染状況を調べるとともに、E.nuttalli株の分離培養を行った。いくつかの分離株については無菌化に成功し、栄養型虫体のクローニングを行った。最初にネパールで分離したP19-061405株のゲノムDNA解析結果に基づいて、Igl遺伝子の全長をPCR増幅できるプライマーの設計を行った。そして、様々なE.nuttalli分離株について、Igl1遺伝子とIgl2遺伝子の直接塩基配列決定を行った。その結果、E.nuttalliのIgl1は1099~1102のアミノ酸残基からなり、赤痢アメーバHM-1:IMSS株のIgl1との同一性は82%~86%、E.dispar SAW760株のIgl1との同一性は75%~77%であった、そして、E. nuttalli分離株に見られるIgl多型は、宿主の種や分布地域の違いを反映していることが明らかになった。
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