腸炎ビブリオは、魚介類やその加工品などを介してヒトに感染するため、魚介類を生食する日本に特徴的な細菌性食中毒の主要原因菌である。腸炎ビブリオは、経口的に摂取された後、腸管内で増殖し、種々の病原因子を遊離することにより下痢や腹痛、発熱などの急性胃腸炎を引き起こす。生物にとって生存・増殖に鉄は必須であり、病原性細菌はヒト体内において病原性を発揮するために特有の鉄獲得機構を有している。腸炎ビブリオは三価鉄の特異的キレート剤であるシデロフォア(ビブリオフェリン)を産生して菌体外の微量の鉄を効率的に取り込む系が存在する。 本菌のビブリオフェリンの病原性との関連について、in vivoにおいて病原性を測定する系としてショウジョウバエを用いた系を確立し、ビブリオフェリン非産生株においては著しく致死活性が低下することを見出した。ショウジョウバエ体内においてビブリオフェリン非産生株の増殖は低下していた。このとき、本菌の種々の病原性因子遺伝子の発現レベルには有意の差は認められなかった。これらの結果は、ショウジョウバエ体内においてビブリオフェリンが主要な鉄獲得系であること、加えて、ビブリオフェリン非産生株における病原性の低下は鉄獲得ができず、増殖速度が低下したためであることを示唆する。カイコを用い、腸管内に本菌を投与する系においても同様に致死活性が低下することを確認した。 本菌はビブリオフェリンを遊離し、鉄と結合したその複合体を特異的な受容体を介して取り込み、利用する。この受容体を介した取り込み系を阻害することはビブリオの増殖阻害剤の開発につながる。現在、受容体の大量産生株を作成し、モノクローナル抗体を作成中である。
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