病原菌が宿主生体内で増殖するためには鉄が必要である。腸炎ビブリオは鉄獲得のためにビブリオフェリンと呼ばれるシデロフォアを産生する。さらに、腸炎ビブリオは外因性シデロフォアを獲得することができる受容体を有しており、鉄を獲得するために非常にしたたかな戦術を採っている、つまり、鉄という元素が生存に重要であることを示唆する。本研究では、腸炎ビブリオの産生するビブリオフェリンと病原性との関連について明らかにするために、in vivoにおける病原性の測定法の開発を行った。感染モデルとしてショウジョウバエおよびカイコを用いた。ショウジョウバエとカイコは自然免疫を有しており、腸管感染症のモデルとなる。これらに腸炎ビブリオ懸濁液を注入し、経時的に生存数を測定すると致死に至るまでの時間によって致死活性を評価できることが明らかとなった。この系を用いることにより、ビブリオフェリン非産生株においては著しく致死活性が低下すること、および、ショウジョウバエの腸管中においてビブリオフェリン非産生株の増殖が低下していることを見出している。 次に、ビブリオフィリンを介した鉄取り込み系について検討を行った。本菌はビブリオフェリンを遊離し、鉄と結合したその複合体を特異的な受容体を介して取り込み、利用する。この受容体を介した取り込み系を阻害することはビブリオの増殖阻害剤の開発につながる。そこで、次の3種類の抗原を用いてモノクローナル抗体を作成することとした。抗原には(1)鉄制限状態における腸炎ビブリオの外膜蛋白(2)ビブリオフェリン特異的受容体であるPvuAの菌体外に露出していると予想される部分のペプチド(3)PvuAの大量産生株を作成し、精製したPvuA、である。その結果、鉄制限下の外膜を抗原としたモノクローナル抗体4株、ペプチドを抗原とした場合、1株が得られた。現在、これらのクローンの性質について検討している。
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