研究概要 |
我々は、Helicobacter pylori〈ピロリ菌〉感染におけるマクロファージの機能に注目し、感染における特異的免疫反応と疾患の関係を研究することにより、ピロリ菌による様々な疾患の病原機構を明らかにすることを目的としてきた。これまでの我々の研究で、菌の熱ショックタンパク(HSP60)が、マクロファージの活性化能が高いことを報告してきた。 1)Helicobacter pyloriによる感染は胃炎を起こし、その中から少数の患者が胃・十二指腸潰瘍、胃ガン、MALTリンパ腫などを発症する。しかし、疾患を発症する感染者はその一部である。我々はH. pyloriの熱ショックタンパク質60(Heat Shock Protein 60kDa : HSP60)が患者の免疫反応を調べるのに適した抗原であることを報告してきた。今回、HSP60で刺激した早期胃がん患者と胃炎患者と健常人のリンパ球の反応性を、マクロファージDEC205のmRNA発現量の解析、及びCD4-T細胞のTh1/Th2サイトカインのmRNA発現とその関連性について検討した岡山大学病院第一内科を受診した早期胃ガン患者30名(Hp-IgG陽性群:19名、Hp-IgG陰性群:11名)、胃炎患者19名、健常人8名から得られた末梢血から単核球を分離し、抗原刺激を加えないcontrol、Ep-Lysate(10μg/ml)、rHp-HSP(10μg/ml)10μで刺激を加えたものの3群に分けた。RNA抽出後、逆転写反応を行い、RT-PCRにてDEC205遺伝子の発現を、MPCR Kit for Human Th1/Th2 cytokines Set-1によりTh1/2サイトカインの発現を調べた。HSP60刺激ではHp-IgG陰性群の胃ガン患者のDEC205発現量が、Hp-IgG陽性群の胃ガン患者及び胃炎患者に比較して有意に低かった.また、HP感染者では健常人に比べ発現量が増加していた.MPCRによりTh1/Th2どちらの遺伝子の発現が優位に増加しているかを検討したところ、Th1優位である胃炎患者や健常人に対して早期胃ガン息者はTh2が優位となることが示された。しかし、胃ガン患者のHp-IgG陽性群とHp-IgG陰性群の間に有意差は認められなかった.H.pylori感染者の中で疾患を発症する人としない人の免疫の特徽を利用して、将来の疾患発症の検査法に応用したい。2)上皮細胞間隙にあるタイトジャンクションと呼ばれる細胞間構造は,管腔からの毒素や菌の侵入を防ぐ役割を持つ。H.pyloriは,胃粘膜に炎症を起こし,また細胞侵入や粘膜侵襲性がないにもかかわらず全身の免疫系にも影響を及ぼす。このことはH.pyloriによって誘導される炎症が,上皮細胞間隙の破壊に重要な役割を担っている可能性を示唆している。本研究では,ZO-1抗体を用いた免疫染色や,トランスウェル上に培養した上皮細胞の電気抵抗測定を行うことで,H.pylori抗原により活性化された炎症細胞がタイトジャンクションにどのような影響を及ぼすかを検討したトランスウェル上に上皮細胞(Caco2,AGS)を培養し,電極で電気抵抗を測定する。抵抗値が最大になったところでMΦを作用させ抵抗値の変化を観察した。PMAまたはHP-lysate,もしくはHSP60を加えてMΦを刺激し,抵抗値の変化をさらに観察した。さらに、加えたMΦ染色(Cell Tracker TM Red)の後,培養した上皮細胞にMΦ(NOMO-I,U937)を作用させ,その際PMAやHP抗原で刺激を加え、抗ZO-1抗体染色を行っマクロファージ活性化による上皮細胞の電気抵抗の変化は、CaCo2にNOMO-1を作用させた結果,NOMO-1のみの場合だと他と比べ抵抗が下がりきらなかった。しかし、抗原を加えMΦを刺激した場合.抵抗値が有意に低下した。ZO-1抗体による免疫染色では、CaCo2において,PMA刺激を加えた活性化MΦを上皮細胞に作用させることによって,タイトジャンクションがさらに破壊されることが示唆された。TNF-alphaがタイトジャンクションを緩めることは報告されているが、炎症細胞からの他のサイトカインがタイトジャンクションの破壊に影響を与えている可能性があり,今後の更なる解明が必要と考えられた。
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