微生物と生体組織成分との間に存在する分子相同性により発症すると考えられている自己免疫疾患は多いものの、証明された例は少ない。本研究では、分子相同性の重要性を示す新たなパラダイムとして、複数の病原体成分が複合体を形成することで、はじめてヒト生体組織との間に分子相同性を有する構造が作り出され、自己免疫疾患が惹起されることを、Campylobacter jejuni腸炎後ギラン・バレー症候群(GBS)を例にして証明することが目的である。 今年度は、GBS患者の糞便より分離培養されたC.jejuniのリポオリゴ糖(LOS)上に存在するガングリオシド・エピトープを、モノクローナル抗体を用いた独自の測定系で検討した。その結果、119株中、GM1とGD1aエピトープの両方を発現している菌株が57株見つかった。その57株が分離された患者中14例(25%)でGM1lとGD1aによる複合体に対するIgG抗体が血中に検出された。さらに、GM1・GD1a複合体抗体陽性の14例全例でIgG抗GMlb抗体が検出された。 以上の結果は、C.jejuni上に存在するGM1様構造とGD1a様構造とが複合体を形成することで新たな標的抗原(=GM1bエピトープ)が形成され、これによって自己抗体が誘導された可能性を示すものである。今後は、検出されたIgG抗GMlb抗体が菌体LOSと交差反応性が存在するか?菌体LOS上のGM1様ないしGD1a様構造のいずれかを消失させることで交差反応性が消失するか?質量分析でのLOSの解析、および動物へのLOS感作でどのような抗ガングリオシド抗体が産生されるか、などを明らかにする必要がある。
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