研究課題/領域番号 |
20590450
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
横田 伸一 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (10325863)
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研究分担者 |
藤井 暢弘 札幌医科大学, 医学部, 教授 (90133719)
岡林 環樹 札幌医科大学, 医学部, 助教 (10359995)
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キーワード | 細菌 / 免疫学 / 感染症 / 生体分子 / 自然免疫 / 発癌 / 炎症 |
研究概要 |
ピロリ菌のリポ多糖(LPS)は、大腸菌などの典型的なLPSに比較して著しく低い内毒素活性しか示さない。一方、私達はピロリ菌LPSが胃上皮細胞株に対してToll-like receptor2(TLR2)を介してシグナルを入れ、TLR4の発現を誘導することを見出した。本年度の研究成果として、TLR4発現誘導機構の解析結果を報告する。 胃癌由来細胞株MKN28とMKN45はTLR4の発現が低いために、大腸菌LPSに対する応答性が低い。細胞をピロリ菌LPSで処理すると、TLR4の発現上昇と大腸菌LPSによるinterleukin-8の産生誘導の増強が認められた。この活性は胃癌由来株の方が、他の疾患由来株に比較して有意に強かった。TLR4プロモーターのレポーター遺伝子解析では、転写因子NF-Yの結合配列に変異を入れた時のみ、ピロリ菌LPSによるプロモーター活性の上昇が認められなかった。NF-Yの活性化がピロリ菌LPS処理によって認められた。MEK阻害剤もしくはERK阻害剤の添加により、NF-Yの活性化とTLR4の発現誘導が有意に抑制された。TLR2のドミナントネガティヴ変異体を細胞に発現させておくとTLR4の発現誘導が抑制された。ピロリ菌LPS処理により胃癌由来細胞株の増殖速度が亢進した。この増殖充進はMEK阻害剤,ERK阻害剤により有意に抑制された。 ピロリ菌LPSはTLR2およびMEK1/2-ERK1/2のMAPキナーゼ系を介してNF-Yを活性化し、TLR4の転写活性化を起こすと推定した。ピロリ菌LPSは単独では強い炎症反応を惹起しないが、LPS低応答性の細胞のLPS感受性を上昇させることが示唆された。更に、MEK1/2-ERK1/2系活性化が細胞増殖の促進に関与することが示唆された。胃癌由来株のLPSが、MEK1/2-ERK1/2のMAPキナーゼ系をより強く活性化することで、上皮細胞の増殖を促進し、さらにTLR4の発現増強により強い炎症反応を起こす素地を胃内で形成することが推察され、LPSが胃癌発症の ひとつの因子になると考えられた。
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