研究課題
発癌作用、血管拡張作用、抗微生物作用など多彩な活性を有する一酸化窒素(Nitric Oxide:NO)のHelicobacter pylori 感染に及ぼす影響について、本菌の感染モデルとして頻用されるスナネズミを使用して検討した。食餌中の硝酸塩(nitrate)は消化管より吸収され、血流に入り、唾液腺により濃縮され口腔内の細菌による還元作用により亜硝酸(nitrite)に変換され、胃酸下でNO生成が行なわれるため、NO供給源として重要である。in vitroでのnitrateのH.pylori 増殖に及ぼす効果を調べた結果、11mM以上のnitrate添加はH.Pyloriの増殖抑制効果をもつことが明らかにされた。飼育用飲料水に nitrate をlmmole/kgあたりに添加し、Nitrate投与群とした。対照群では蒸留水を投与した。H.pyloriTK1402株をスナネズミに経口感染させ3ヵ月後に、定着H.pylori菌数、血漿中、胃液中、胃粘膜中のnitrate量およびnitrite量、病理学的所見を評価した。Nitrate投与はH.pyloriの胃内定着菌数を変化させなかった。Nitrate投与群の血漿、胃液および胃粘膜中におけるnitrate量およびnitrite量は、対照群に比べ有意に高値を示した。病理学的解析の結果、nitrate投与群では対照群に比べ炎症スコアおよび胃腺拡張の低下が認められた。本実験結果はnitrateを含む食品の摂取がH.pyloriの胃粘膜に対する感染効果を減弱化させる可能性を示唆している。加えて健康成人ボランティア25名を対象としてnitrateを豊富に含有する日本食の効果を評価した。日本食の摂取により、唾液および血清中のnitrate,nitrite濃度の増加に加え、拡張期血圧の低下が認められた。これらの結果より、NOはH.pylori感染のみならず生体の諸機能にも影響を及ぼしている可能性が示唆された。
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