研究概要 |
毒素原性大腸菌H10407株のEntプラスミド(pEntH10407K)中の不明瞭なDNA領域の塩基配列を決定し、pEntH10407Kの全塩基配列を決定した。pEntH10407Kは、67,094塩基対から成り、51.2%のG+C含量であった。決定された塩基配列をもとにタンパク質コード領域(ORF)を推定し、その推定アミノ酸配列の相同検索解析からコードタンパク質を推定した。その結果、pEntH10407Kは、100個のORFが存在し、3つの異なる機能領域、すなわち、エンテロトキシン遺伝子が局在する病原性領域、接合伝達遺伝子が存在するtra領域、そして、プラスミド複製やメインテナンスに関与するプラスミド基本機能領域から構成される機能モザイク様病原プラスミドであることが明らかになった。病原性領域には易熱性、及び、耐熱性エンテロトキシンの両エンテロトキシン遺伝子(eltとest)が存在し、eltとestの周辺には挿入配列やトランスポザーゼ遺伝子が散在して存在すること、そして、eltとestの平均G+C含量が37.6%と30.1%であり、大腸菌の平均G+C含量50.2%と比較して著しく低いことから、pEntH10407Kは、eltとθestが大腸菌以外の他の細菌からトランスポジションの機序により転移して病原性プラスミドへと変化し、この病原性プラスミドへの変化が非病原性大腸菌から病原性大腸菌への変遷に寄与したと推察された。次に、pEntH10407Kのtra領域は、典型的なtra領域をもつR100プラスミドのtra領域と比較すると、いくつものかtra遺伝子が欠失し、不完全なtra領域を形成していることが判明した。このことから、H10407株Entプラスミドの他の細菌への拡散に関連するpEntH10407Kの接合転移能がR100の接合転移能とは異なる可能性が推察された。
|