毒素原性大腸菌H10407株のEntプラスミド(pEntH10407K)は、tra領域を有している。tra領域は、接合伝達によりEntプラスミドを水平転移し、病原遺伝子伝播に関与する可能性が考えられる。pEntH10407Kのtra領域と他の接合伝達プラスミドのtra領域の遺伝子構成を比較すると、典型的接合伝達プラスミドの完全なtra領域が40個のtra遺伝子から構成されるが、pEntH10407Kのtra領域は、17個のtra遺伝子のみが存在し、多くのtra遺伝子が欠落した不完全なtra領域を有していた。pEntH10407は、自己水平転移能を有していないと報告されているので、この多くのtra遺伝子の欠落が自己水平転移能を示さない原因と考えられた。私は、pEntH10407Kの不完全なtra領域と本Entプラスミドの接合伝達による病原遺伝子伝播への関係を明確にするため、pEntH10407Kの自己水平転移活性を検討した。その結果、本Entプラスミドは、著しく低頻度ではあるが、自己水平転移活性を有することが明らかになった。接合伝達によるプラスミドの自己水平転移は、性線毛を介して行われる。性線毛を構成するビリは、tra領域中のtraAにコードされることから、接合伝達に必須である。そこで、pEntH10407Kの不完全なtra領域中のtraAを欠失した変異pEntH10407K (pEntH10407KΔtraA)を作製し、この変異pEntH10407Kの自己水平転移活性について検討した。その結果、pEntH10407KΔtraAの自己水平転移活性は、完全に消失していることが判明した。このことから、pEntH10407の自己水平転移活性は、本Entプラスミドの不完全なtra領域に由来する活性であり、本Entプラスミドの接合伝達による病原遺伝子の伝播に関与する可能性が推察された。
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