毒素原性大腸菌(ETEC)は、易熱性エンテロトキシン(LT)、あるいは、耐熱性エンテロトキシン(ST)を産生し、感染した宿主に下痢症を引き起こす。本菌病原性の多様性の一つの原因は、これらエンテロトキシンの一方、あるいは、両方をコードするのかによる。既に全塩基配列を決定したETEC H10407株のEntプラスミド、pEntH10407は、両エンテロトキシン遺伝子をコードすることが高病原性の一因と考えられている。ETEC菌株の病原性とEntプラスミドの関係を明らかにするためは、Entプラスミドの比較が必要であることから、ETEC菌株の収集を行った。ブラジル・サンパウロの小児下痢症患者から単離されたETEC菌株をアガロースゲルに包埋し、パルスフィールドゲル電気泳動によりDNAを分離した。LT遺伝子(elt)に対するDNAプローブを用いてサザンハイブリダイゼーションを行ったところ、pEntH10407よりも25Kb以上大きな分子サイズを示すEntプラスミドを有するETEC菌株が見出された。次に、このEntプラスミドにおけるST遺伝子(est)の有無を調べるため、est(Ia、または、Ib)を特異的に検出するPCR試験を行った。しかしながら、予想される分子サイズの増幅断片は検出されず、本Entプラスミドは、estを有していないと考えられた。また、Tra領域の有無について調べるため、Tra領域をPCRスキャニングした。その結果、本Entプラスミドにおいては、2種のtra以外のtraが全て検出され、不完全なTra領域を形成するpEntH10407とは異なり、ほぼ完全なTra領域を有していると考えられた。
|