研究概要 |
毒素原性大腸菌(ETEC)H10407株と同一のO血清型であるO78:H12のETECにおいて伝達性プラスミドの存在が報告されている。そこで、ブラジルのサンパウロの幼児下痢症患者から単離されたETEC O78:H12のEntプラスミド、pEntO78H12の全塩基配列を決定した。決定されたpEntO78H12K(薬剤耐性遺伝子を挿入して標識されたEntプラスミド)は、94,299塩基から成る環状プラスミドで50.9%の平均G+C含量であった。オープンリーディングフレーム(ORF)検索の結果、136個のORFの存在が推察された。推定アミノ酸配列の相同検索から、81個のORFに対して推定上の機能が割り当てられ、42個のORFには種や属を越えて保存されている機能未知タンパク質が割り当てられた。残り11個のORFは、現時点でのデータベース上では類似のアミノ酸配列が検出されなかった。pEntO78H12K のプラスミドメインテナンス領域には、トキシン-アンチトキシンシステムやプラスミド分配システムがコードされていた。また、病原性領域には、易熱性エンテロトキシンがコードされ、また、Tra領域には、trbAとtrbFの2つの遺伝子を除く大部分のtra遺伝子が存在していた。一方、pEntO78H12Kに接合による自己水平転移能があることが判明した。さらに、pEntO78H12Kが接合伝達により非病原性の大腸菌K-12株へ伝達されると、そのK-12株の培養上清に下痢活性が発現することが判明した。以上から、pEntO78H12は、水平転移で非病原性、そして、病原性の大腸菌や他の腸内細菌へ伝達され、Entプラスミドに起因する下痢原性を伝播し、転移先の宿主菌体内では、Entプラスミド上にコードされるプラスミドメインテナンスシステムによって安定に維持されると推察された。
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