研究概要 |
Salmonella enterica serovar Typhimuriumの染色体上に存在するSalmonella Pathogenicity Island 2の領域内に同定した新規の病原性遺伝子,spiCはマクロファージ(Mφ)の殺菌能に対する抵抗性やマウスに対する全身感染の成立に関与しているが,その機能は明らかでない.そこで,SpiCの機能を明らかにする目的でサルモネラ感染によりMφ内で変化する宿主因子の網羅的な解析をcDNAアレイ等の方法により行った結果,spicがシクロオキシゲナーゼ2,IL-10,サイトカイン抑制因子3(SOCS-3)などの遺伝子発現の増強に関与していること,さらに菌体を電子顕微鏡により調べた結果,SpiCの線毛形成への関与が明らかとなった.そこで,線毛形成におけるSpiC関与のメカニズムとその意義を平成21年度の研究実施計画に基づいて研究を行った結果,以下の新たな知見を得た.1.S.Typhimuriumが保有している12の線毛遺伝子の欠損変異株をλRed組換えシステムにより作製した.2.これらの欠損変異株を用いて,サルモネラを感染させたMφからのSOCS-3発現の変化をウエスタンブロット法により調べた結果,タイプ1線毛をコードしているfimAがその発現に影響していることがわかった.3.fimA変異株を電子顕微顕微鏡により調べた結果,菌体表面の線毛がspiC変異株と同様に欠失していた.この結果より,SpiCはFimAを介して線毛形成に関与していることが示唆された.4.サルモネラ感染Mφにおけるp38およびERKシグナル伝達経路の活性化のレベルを調べた結果,野生株に比べてfimA変異株において低下が見られた.5.12の線毛遺伝子欠損変異株のMφに対する貧食能および殺菌能を調べた結果,野生株と比べて変化は見られなかった.6.SpiCのfimA発現への関与をmRNAを用いて定量RT-PCRにより調べた結果,その影響は見られなかった.この結果より,SpiCはfimAの転写後段階に関与している可能性が示唆された.
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