研究概要 |
Salmonella enterica serovar Typhimuriumの染色体上に存在するSalmonella Pathogenicity Island 2の領域内に同定した新規の病原性遺伝子であるspiCは,マクロファージ(Mφ)の殺菌能に対する抵抗性やマウスに対する全身感染の成立に関与しているが,その機能は明らかでない.そこで,SpiCの機能を明らかにする目的でサルモネラ感染によりMφ内で変化する宿主因子の網羅的な解析をcDNAアレイ等の方法により行った結果,SpiCがシクロオキシゲナーゼ2, IL-10,サイトカイン抑制因子3(SOCS-3)などの遺伝子発現の増強に関与していること,さらに菌体を電子顕微鏡により調べた結果,SpiCの線毛形成への関与が明らかとなった.そこで,平成22年度の研究計画においてタイプ1線毛の構成蛋白であるFimAに注目して,MφからのSOCS-3発現増強のメカニズムを詳しく調べた結果,以下の新たな知見を得た.1.FimA蛋白質を遺伝子組み換えによりGSTとの融合蛋白を作製し,大腸菌で多量発現を行いその精製を行った結果,精製FimA蛋白を得た.2.MφからのSOCS-3の発現への関与を調べるために,精製したFimAをMφに作用させてSOCS-3の発現をウエスタンブロット法により調べた結果,その発現の増強が見られた.3.Mφ内シグナル伝達経路活性化への関与を調べるために,FimAを作用させたMφのMAPキナーゼ(p38, ERK, JNK)およびNF-κBなどのシグナル伝達経路活性化の有無を種々のリン酸化抗体を用いて,ウエスタンブロット法により調べた結果,それらすべての活性化が見られた.4.FimAのMφにおけるシグナル伝達経路活性化におけるTRL2の関与を調べるために,FimAで刺激したMφにTRL2の中和抗体を作用させSOCS-3発現の変化を調べた結果,その発現が抑制された.5.さらにTLR2の関与を調べるために,TLR2を発現させたHEK-293細胞を用いて,FimAを作用させることによりHEK-293細胞の活性化の有無を調べた結果,その活性化が見られた.以上の結果から,FimAはTRL2を介してMφからのSOCS-3発現に関与していることが判った.
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