研究概要 |
Salmonella enterica serovar Typhimuriumの染色体上に存在するSalmonella Pathogenicity Island 2は,マクロファージ(Mφ)の殺菌能に対する抵抗性やマウスに対する全身感染の成立に関与しており,それに関わる病原因子としてこの領域内に新規遺伝子であるSpiCを同定した.これまで,SpiCがシクロオキシゲナーゼ2 (cox-2), IL-10,そしてサイトカイン抑制因子3などの発現増強に関与していること,さらに鞭毛や線毛の形成に関与していることを報告してきた.これまでの研究結果から,SpiCは鞭毛や線毛形成に関与し,TLR5やTLR2を介してサルモネラ感染Mφ内のシグナル伝達経路を活性化し上記ファクターの産生を促すと考えられる.平成23年度の研究計画において,サルモネラのMφ内増殖における細胞内カルシウムイオンの重要性について検討を行った結果,以下の新たな知見を得た.1.サルモネラを感染させたMφおよびHeLa細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を測定した結果,野生株を感染させた細胞では,SpiC欠損変異株を感染させた場合に比べて有意に増加した.2.Mφ内でのサルモネラの増殖性およびCOX-2発現への細胞内カルシウムの関与を調べるために,カルシウムチャンネルの阻害剤であるベラパミル処理により野生株のMφ内増殖の低下に加えて,サルモネラ感染MφのCOX-2発現が阻害された.3.サルモネラのMφ内増殖への関与が報告されているSif(Salmonella-induced filament)の形成能を調べた結果,その低下が見られたことからサルモネラの病原性における細胞内カルシウムイオンの重要性が示された.4.カルシウムシグナル伝達経路の関与について調べるために,カルモジュリンやMLCK(myosin light chain kinase)の阻害剤(W-5,ML-7)を用いて検討を行った結果,これらの阻害剤処理によりサルモネラのMφ内増殖およびSif形成の低下が見られた.以上の結果から,SpiCは細胞内カルシウムイオンの増加を促し,カルモジュリンを介してMLCKを活性化して,Sifの形成を引き起こすことにより,サルモネラの細胞内増殖に関与していることが示唆された.
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