本研究課題では、赤痢菌感染細胞の形態維持に関わる作用因子の機能解析として、赤痢菌のエフェクターOspE2を中心にその分子機構の解析を行っている。OspE2は、種々のグラム陰性の病原性細菌においてそのホモローグが広く保存されていることが知られている。このことから、OspE2の機能解析は、OspE2ホモローグを保有する種々の病原性細菌の感染分子機構ならびに病原性発現機構の解明に寄与できると考えられる。H21年度においては、前述の可能性を考慮し、OspE2ホモローグの機能における共通点あるいは相違点を調べるために、腸管出血性大腸菌のOspE2ホモローグであるEspOについての機能解析を行った。腸管出血性大腸菌はEspO1-1およびEspO1-2の2つのOspE2ホモローグを保有する。腸管出血性大腸菌espO1-1 espO1-2二重欠損株に感染した培養上皮細胞は顕著な形態変化(rounding)を引き起こした。また、培養上皮細胞内で異所性発現したEspO1-1およびEspO1-2は細胞接着斑に局在した。しかしながら、感染細胞内におけるEspO1-1とEspO1-2の局在性は異なり、EspO1-1の細胞接着斑への局在は確認できたが、EspO1-2においては確認できなかった。さらに、espO1-1 espO1-2二重欠損株感染細胞において、RhoA活性化レベルの増加やRock inhibitorによるroundingの抑制が認められた。以上の結果より、腸管出血性大腸菌EspOは、赤痢菌OspE2と同様に感染細胞の形態を維持するために働くが、宿主細胞内における局在性において一部OspE2と異なる分子機構を持つことが示唆された。加えて、新たにOspE2ホモローグがRhoA-Rockシグナル伝達系に関与する可能性が示唆された。
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