ヒトT細胞白血病ウイルス1(HTLV-1)は細胞間接触を介して感染・伝播する。本研究ではHTLV-1の細胞間感染伝播のメカニズムを、宿主細胞のシナプス形成装置を利用した細胞内侵入(ウイルス学的シナプス)という観点から明らかにすることを目的としている。我々は細胞間シナプス形成に重要である細胞極性因子Dlg1が、HTLV-1の細胞間感染に重要な役割を果たしていることを明らかにした。そこでDlg1のT細胞における分子ネットワークを明らかにするため、Dlg1に結合する蛋白を精製、LC-MS/MS解析を行った結果、新たなDlg1結合蛋白としてMPP7を同定した。MPP7はDlg1と同じくMAGUKファミリー属する分子であり、細胞極性形成に深く関与していることが示唆されている。我々はHTLV-1細胞間感染におけるMPP7の機能を解析するため、HTLV-1感染T細胞株およびターゲット細胞となる非感染T細胞株を用いて、MPP7ノックダウン細胞を作製し解析を行った。両細胞を混合培養し、HTLV-1感染による合胞体形成を見たところ、ターゲット細胞においてMPP7をノックダウンしたときのみ合胞体形成の顕著な低下が認められた。このことからMPP7はHTLV-1細胞間感染において重要な機能をもつこと、そしてその機能はターゲット細胞側で発揮されることが明らかとなった。HTLV-1の受容体であるGLUT-1は細胞内ドメインにPDZドメイン結合配列をもち、PDZ蛋白を含む細胞極性因子との相互作用が示唆されている。以上からDlg1-MPP7複合体がウイルス学的シナプス形成においてGLUT-1の機能を調節し、HTLV-1細胞間感染を促している可能性が考えられた。
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