研究概要 |
(1)蛍光蛋白タグで標識したPIV5のHN蛋白とSe-WRFをHeLa細胞に発現させてトリプシン処理し,倒立蛍光顕微鏡で観察したところ,蛍光はほとんど検出されず,膜融合も認められなかった。この結果から,蛍光蛋白タグの付加によってこれらの蛋白の発現効率が著しく低下した可能性が示唆された。 (2)宿主細胞表面に存在するジスルフィドイソメラーゼ(PDI)ファミリーの酵素によるF蛋白の分子内ジスルフィド結合の再編成が,F蛋白の構造変化すなわち膜融合誘導に必要か否かを調べるために,HPIV5のHN蛋白とF蛋白をHeLa細胞に発現させ,これらの酵素の活性をDTNBやバシトラシンで阻害したところ,膜融合に対する抑制は認められなかった。従って,F蛋白の構造変化はHIVのEnvなどとは異なり,分子内ジスルフィド結合の再編成を必要としないことが明らかになった。 (3)PIV5のF蛋白の5つのドメイン(M1,M2,M3,M4およびB)をシミアンウイルス41(SV41)の相同ドメインで置換したキメラF蛋白は,SV41のHN蛋白と共発現させると膜融合を誘導できるが,PIV5のHN蛋白との共発現では膜融合を誘導できなくなっていた。すなわち,これらのドメインがHN蛋白との特異的な機能的相互作用に関わっていることが明らかになった。 (4)本年度の研究により,HN蛋白とF蛋白の機能的相互作用においてF蛋白のHN蛋白特異性を規定するドメインが同定されたことから,膜融合の分子機構の研究領域にパラダイムシフトがもたらされるものと考えられる。一方,HN蛋白とF蛋白の物理的な相互作用を解析するためには,免疫共沈法などの従来の手法では限界があり,より繊細な手法(フォトクロスリンク法など)を用いて行なう必要があることが示唆された。
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