研究概要 |
平成22年度(昨年度繰越)は,インフルエンザウイルスの行動パターンを決定する要因であるウイルスのヘマグルチニンとシアロ糖鎖との結合を測定するための糖鎖プローブを作製し,ヘマグルチニンとシアロ糖鎖の結合特性の解析を行った.糖鎖プローブは,精製した血清アルブミンにα2,6あるいはα2,3型複合型シアロ糖鎖を化学結合させ,さらにアルブミン部分を蛍光標識した.ヒトインフルエンザウイルスヘマグルチニンはα2,6型シアロ糖鎖と,トリウイルスヘマグルチニンは,α2,3型シアロ糖鎖と結合することが知られているが,今回作製したα2,6型糖鎖プローブはヒトを宿主とするインフルエンザウイルス(のヘマグルチニン)と,α2,3型糖鎖プローブはトリウイルス(のヘマグルチニン)と結合することが蛍光顕微鏡下で確認できた.さらに,プローブ濃度を変化させた場合の結合量を定量することで,ヘマグルチニンとシアロ糖鎖の結合力を(相対値ではあるものの)定量的に測定できることがわかった.この糖鎖プローブを使い,ヒトウイルスおよびトリウイルスのH1亜型のヘマグルチニンとシアロ糖鎖との結合力の解析を行った.その結果,ヒトウイルスヘマグルチニンはトリウイルスヘマグルチニンに比べ3倍程度シアロ糖鎖との結合力が弱いことがわかった,以前の研究から,ヒトウイルスはトリウイルスに比べ跳躍的な運動を含む感染行動をとることがわかっているが,このヒトウイルス特有の行動パターンはヘマグルチニンのシアロ糖鎖に対する弱い結合力に起因すると考えられる.ウイルスのヒトへの感染性の獲得には,従来,結合する糖鎖のタイプがα2,3型からα2,6型糖鎖に変化することが指摘されているが,それ以外にもヘマグルチニンのシアロ糖鎖との結合力が低下することが重要であることが明らかになった.
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