研究概要 |
平成22年度は,インフルエンザウイルスの感染行動パターンを決める要因を明らかにするため,三種類のヒトを宿主とするインフルエンザウイルスと三種類のミズトリを宿主とするインフルエンザウイルスの行動(運動)の解析と各ウイルスの運動パターンを生む分子基盤であるヘマグルチニンとノイラミニダーゼの機能解析を行った.ヒトインフルエンザウイルスについてはH1N1とH3N2亜型ウイルスを,トリウイルスについてはH1N1, H3N2, H5N3亜型ウイルスについて解析を行った.行動解析の結果,いずれの亜型でもヒトウイルスは人工細胞表面において跳躍的な運動パターンを示した.一方,全ての亜型においてトリウイルスは漸進的な運動パターンを示した.次に,運動パターンを生み出す分子基盤であるヘマグルチニンとノイラミニダーゼの機能に関しては,ヒトウイルスのヘマグルチニンは,トリウイルスのヘマグルチニンに比べシアロ糖鎖との結合力が,1/3~1/4に低下していた.ノイラミニダーゼのシアロ糖鎖分解活性については,ヒトとトリウイルスで大きな差は見られず,ヒトウイルスのノイラミニダーゼの活性は,トリウイルスのノイラミニダーゼに比べ3/4程度低かった.さらに遺伝子解析により,ヒトウイルスのヘマグルチニンでは,シアロ糖鎖結合部位付近のアミノ酸に変異が見られ,これがシアロ糖鎖結合力の低下の原因となっていた.以上のことは,ヒト細胞へ効率的に感染することができるようになる(ヒトへの感染性を獲得した)ウイルスとは,ヘマグルチニンのシアロ糖鎖結合部位の周辺が変異することでシアロ糖鎖との結合が低下し,それにより跳躍的運動能を獲得したウイルスであると考えられる.
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