研究課題
HIV-1がコードするアクセサリータンパクNefはエイズ病態形成への関わりが示唆されてはいるもののその機能は未だ明らかではない。我々は、ヒトマクロファージ(Mf)にNefの調節性発現が可能な組換えアデノウイルスを感染させてマイクロアレイ解析した結果、Nefの高度発現に伴って自然免疫機能に関わる遺伝子(TLR5とIL-10Rβ)低下することを見出した。これまでの解析の結果、MfをTLR5のリガンドで刺激した時のIL-6産生量はNef発現により低下したが、MfのTLR5やIL-10Rβの細胞表面発現は元来少なく、Nef発現の効果は明白でなかった。そこで、HIV-1感染そのものがMfの自然免疫機能を障害するかどうかを検討するため、EGFPを発現する野生株(WT)あるいはそのNef欠損(ΔNef)R5型HIV-1をMfに感染させ、7日後の多種サイトカイン量を測定した。その結果、HIV-1 ΔNef感染MfではWT感染あるいは非感染Mfと比較してMCP-1、MIP-1αおよびIP-10の産生量が顕著に増加した。また、WT感染あるいは非感染MfによるIL-8およびMIP-1βの産生は免疫抑制性サイトカインであるIL-10を培地に加えると低下したのに対し、HIV-1ΔNef感染MfではIL-10による抑制効果が認められなかった。そこで、NefによるIL-10シグナル阻害機序を明らかにするため、その下流に存在するシグナル伝達分子、STAT-3のリン酸化について検討した。IL-10によって誘導されるSTAT-3のリン酸化のレベルはNef発現による影響を受けず、NefによるIL-10シグナル阻害効果はSTAT-3非依存的であることが示唆された。以上のことから、NefはMfにおいて炎症性サイトカインであるIL-6、MCP-1、MIP-1α、およびIP-10の産生およびIL-10を介するサイトカイン産生抑制性シグナルを阻害して免疫系のバランスを乱すことにより、HIV-1感染に対する自然免疫監視機構を回避している可能性がin vitroの実験で示された。しかしながら、ヒト化マウス体内で分化するヒトマクロファージや樹状細胞における同様のNefの機能をin vivoで確認するまでには至らなかったため、今後の検討を要する。
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Biochem.Biophy.Res.Comm.
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