T細胞受容体(TCR)は、獲得免疫応答の最も中枢に位置する。TCRによる抗原認識は、複数の細胞内シグナル伝達経路を誘導する。そのうちの一つは、IKKを介して獲得免疫応答におけるT細胞の増殖や分化に重要である転写因子NF-κBを活性化する。プロテインキナーゼCθ(PKCθ)、足場蛋白であるCARMA1、CARD(caspase recruitment domain)をもつ蛋白Bc110、およびパラカスパーゼ(カスパーゼ関連プロテアーゼ)であるMALT1が関与しているシグナル伝達経路は、TCRとIKK複合体を結びつける必須の中間経路であることが明らかにされつつある。しかし、シグナル伝達経路の活性化を開始するTCR近傍の現象はほとんど明らかにされていない。このシグナル伝達経路の態様をさらに解明することにより、免疫調節薬開発等のための新たなターゲット分子を提供すること目的として研究を推進している。 本課題では、MEKK3のコンディショナルノックアウトマウスにおいてT細胞の発生分化や機能が著しく障害され、獲得免疫応答が不全であることを見出した。さらにMEKK3が、CARMA1、Bc110およびMALT1からなるマクロ分子複合体、特にCARMA1と効率的に相互作用すること等から、MEKK3がT細胞受容体媒介シグナル伝達に欠くことができない分子であり、T細胞の発生分化及び機能を調節し得ること、免疫調節薬開発等のための新たなターゲット分子として有用であること等を見出した。現在、遺伝子をB細胞特異的に欠落させるmb1-Cre(Igα-Cre)マウスと交配し、MAP3K3の遺伝子欠損マウスを用意し、分化への影響、寄与を検証している。
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