従来の4年制薬系大学における卒前実習は、既存の学術情報や技術の習得に重点が置かれており、病院実習についても体験型より見学型に留まっていた。そこで問題解決と新たな医療の創生に力を発揮できる薬剤師の育成を目指し、新たな6年制薬剤師教育への応用を念頭にカリキュラム開発を行った。問題解決のためにはその前提として問題を問題と認識できる能力、危険を危険と認識できる能力の開発が重要であると考えるが、従来この点はほとんど考慮されてこなかった。本研究では危険認知力と問題解決力の開発のため、医療安全の分野で用いられてきた「危険予知トレーニング」の手法を新たに薬剤師養成カリキュラムに導入することを試みた。 4年計画の初年度にあたる今年度は、まず基礎研究として、薬学生のコミュニケーションの現状とその問題点を明らかにするための調査を行った。その結果、薬学生は、将来問題解決にあたるべき対象である患者や、高齢者、幼児・小児などと接する機会が非常に少ないことが明らかになった。この事は薬学生が幅広い危険認知をできるようになるために、考慮すべき点であると考えられた。次に調剤プログラムへの危険予知トレーニングの応用を試みた。調剤経験のない者が危険予知トレーニングを行うのは難しいが、かわりに経験者が危険予知トレーニングを行い、その中で作成された「危険ストーリー」を新人教育のロールプレイのシナリオに用いることで、新人でも危険予知の体験が可能になることが示された。引き続き、危険予知トレーニングを組み込んで、無菌調製や薬物動態解析などに関わる実習プログラムを開発する。
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