社会福祉施設、とくに特別養護老人ホーム(特養)が直面する入所者の重度化に対し、平成20年度は(1)医療と介護の協働面から終末期ケアの現場実態を調査した。医療側からは臨床の最前線に立つ医師へ焦点をあて、彼らのメンタルヘルス維持の重要性と、それを達成するための試案を提唱した(精神科治療学23:776-780)。介護側からは特養の現場職員が、看護師・医師といった医療職によるバックアップの乏しい中で利用者の終末期に関する難しい判断を強いられる現況へ注意を喚起し、彼らを不相応な困難へ直面させない代理判断システムの必要性につき提唱した(神経内科70:328-329)。加えて、(2)入所者の終末期の看取りを行うことが施設経営に与える影響につき、介護保険制度の展開と家族ら関係者のニーズを踏まえ、かつ癌患者に対する緩和ケアと比較した上で問題を整理した(人間学研究24:13-20)。また、病院での終末期ケアと、特養を主体とする介護保険施設との対比へも言及した(精神科治療学24:印刷中)。これらを基として、(3)重度化対応加算、看取り介護加算につき施設経営へ与えた影響を評価するため、平成20年10月から12月にかけて兵庫県の全特養251施設を対象とし、看取りの実態と、看取り介護加算および重度化対応加算の取得状況に関する質問紙調査を施行した。集計と考案は平成20年度末に完了しており、とくに看取り介護加算は経営面への効果こそ十分ではないが、管理者と職員を看取りの実現という共通認識へ導き、職場環境の整備や介護における効率性の追求へ資する可能性があるとの結論を得た。これは学術誌へ投稿済であり、現在審査に付されている。 以上(1)〜(3)の成果は科研費の申請に際し立案した計画に従って獲得され、3年計画の初年度として所期の目標を達成し得たものである。今後さらに、平成21年4月から施行された介護保険制度改正が、現場職員や施設経営へもたらす影響を精査すべく、研究計画に沿って研究を継続していく所存である。
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