研究概要 |
重度化対応加算(重度加算)と看取り介護加算(看取加算)が創設後3年を経て改定され,特別養護老人ホーム(特養)の看取りを初めて経済的に保障した制度の意義を検証する必要がある。平成21年度は,前年末に兵庫県の全特養を対象に行った,両加算の算定状況と非算定施設における看取りの実態調査を検証した。休廃止を除く249施設から165通の回答が得られ,重度加算は133施設,看取加算は98施設で算定されていた。看取加算を算定しない67施設のうち39施設が看取りへ対応し,将来,両加算の算定を期していた。看取りは職員の育成や入居者・家族の満足へつながるが,経営上問題視されていた。両加算の意義は加算そのものより,管理者と職員を看取りの実現という共通認識へ導き,職場環境の整備や業務の標準・効率化へ資する可能性にある(医療社会福祉研究18)。結果を踏まえ,以下のように考察した。今後,高齢者施設は終末期対応に積極的な施設と,そうでない施設へ分化していく可能性が高い。看取りへ向けた制度上の拡充策は二つの方向性と,それぞれの限界がある。一つは介護保険サービスを最低担保と捉え,これを超えたケアの自費受給を認めること,もう一つは,ケアの質の高い事業者へ介護報酬を傾斜配分することである。在宅ケアは混合診療へ抵触せず,公費限度額以上を自費で賄えるが,それを特養入居者に適応すると,所得格差が施設サービスへ持ち込まれる懸念は残る。傾斜配分は,終末期ケアを全ての利用者が希求するとは限らないことから,施設が提供するケアを多軸的に評定する仕組みが必要となる。その重要な因子として看取りが勘案されるべきである(精神科治療学24)。あわせて,特養に対する質問紙調査が導く業務への影響(日本医事新報4474,厚生の指標57[6])や,施設職員と学生の終末期への認識度(人間学研究25)について検討した。以上の成果をもとに,平成22年度の研究継続へ努める所存である。
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