本研究は乳がん細胞に発現する蛋白を迅速に検索する方法を確立し、発現蛋白を複数個組み合わせて抗がん薬選択や予後予測等の確立を視野に入れた研究である。この目的のため、以下のような実験を行った。 まず、研究分担者より正常乳腺組織と乳がん組織を入手し、タンパク質を効率よく抽出するため、バッファーおよび界面活性剤等の選択を含めたサンプル調整法の検討を行った。この中で細胞タンパク質を可溶性分画・非可溶性分画に分け、それぞれの分画にあった組織溶解バッファーを用いて二次元電気泳動を行った。スポットの検出には銀染色を用いた。分画毎に電気泳動を行うと手間は増えるものの、未分画溶解液の二次元電気泳動よりもタンパク質スポット数は倍増した。 正常乳腺組織とがん組織の分画組織溶解液を、等電点電気泳動を行わないSDS電気泳動のみで比較した所、明らかにタンパク質発現様式は異なっていた。 がん組織の可溶性分画・非可溶性分画組織溶解液を用いてSELDI-TOF MSにより質量分析を行ない、得られたスペクトルを二次元電気泳動と比較したが、SELDI-TOF MSの感度の高いスペクトル領域は50kDa以下であり、二次元電気泳動で認められる領域(30-200kDa)とは大きく離れるため電気泳動の結果は参考にならなかった。また乳がん組織でのホルモン受容体の有無あるいはHER2発現の有無でSELDI-TOF MSによるスペクトラルのパターンに違いは認められなかった。 二次元電気泳動スポットの直接比較をするために、異なる乳がん組織間において電気泳動の結果を比較した。タンパクスポットはpH6-8に最も多く認められるため、効率的な比較のためには一次元電気泳動ではpH5.8等電点の泳動による比較が望ましいと思われた。
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