中高年で発症頻度が増す脳梗塞などの虚血性脳血管障害は、日本における死因の上位を占めている。また、一命を取り留めたとしても後遺症を伴うことが多く、高齢化社会を迎えた現代において、患者のQOLの観点から治療薬の開発は急務な課題である。しかし、脳梗塞により惹起される虚血性神経障害の分子機構は未だ明らかとなっておらず、また、本疾患に対する有効な治療薬もない。近年、必須微量金属である亜鉛が脳虚血により惹起される神経細胞障害に関与していることが示唆されており、虚血性脳血管障害の発症・進展における亜鉛の役割が注目されている。一方で、虚血性脳血管障害の病巣では活性化ミクログリアが認められることから、ミクログリアが上記疾患の神経細胞障害に関与していることも示唆されている。しかし、亜鉛とミクログリアの機能に及ぼす影響については不明な点が多い。本研究では、亜鉛の曝露によりミクリグリアの細胞株HAPI細胞を用いた実験から、インターフェロンβ(IFN-β)の発現が亢進することが明らかとなった。他のサイトカイン類(IL-1β、TNF-α、IL-6)についても検討したが、ほとんどその発現に亜鉛の影響は認められなかった。亜鉛によるIFN-βの発現は、アクチノマイシンD存在下で阻害されることから、転写レベルで制御されていると考えられた。亜鉛は、3種類のMAKキナーゼ(ERK、JNK、p38)のリン酸化を亢進したことから、亜鉛によるIFN-βの発現誘導に対するMAPキナーゼの関与について各種阻害剤を用いて検討した。その結果、JNKの阻害剤により亜鉛によるIFN-βの発現がほぼ抑制された。これより、亜鉛によるIFN-βの発現誘導においてJNKが重要な役割を担っていることが明らかとなった。
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