各種消化管傷害における腸管マクロファージの役割に関する研究を行い、以下の成果を得た。 1. ニコチンおよびα7型ニコチン受容体(α 7nAChR)作動薬の投与がNSAID誘起小腸傷害を有意に抑制することを見出した。傷害部位ではα 7nAChRの発現がマクロファージなどの炎症性細胞で増大していることを観察した。ゆえに、α 7nAChRの活性化はNSAID誘起小腸傷害に対して保護作用を発揮することが判明した。 2 内因性アセチルコリン遊離を促進するドパミンD2受容体遮断薬の投与が、NSAID誘起小腸傷害を有意に抑制することを見出した。この抑制作用は傷害部位に浸潤したマクロファージのα 7nAChR受容体の活性化を介していることが判明した。 3 関節炎ラットにおけるNSAID誘起胃損傷の増悪はiNOSおよびeNOS選択的阻害薬によりそれぞれ部分的に、また両阻害薬の併用によりほぼ完全に抑制された。関節炎ラットの胃粘膜ではiNOSのみならずeNOS発現が増大していることを認めた。ゆえに、関節炎発症時におけるNSAID誘起胃損傷の増悪にはiNosおよびeNOS発現の増大に伴うNOの過剰産生が関与していることが判明した。 4 プロトンポンプ阻害薬であるランソプラゾールがNSAID誘起小腸傷害を抑制することを見出した。この抑制効果はヘムオキシゲナーゼ(HO)阻害薬により消失し、またランソプラゾールがHO-1発現を増大させることを観察した。ゆえに、NSAID誘起小腸傷害に対してランソプラゾールはHO-1誘導を介して保護作用を発揮することが判明した。 5. 慢性胃潰瘍の治癒がop/opマウスでは有意に遅延していることを見出した。op/opマウスでは野生型マウスと比較して胃潰瘍辺縁部におけるCD68陽性マクロファージの集積が著明に低下していた。また、野生型マウスの胃潰瘍辺縁部では各種炎症性サイトカイン発現および血管内皮増殖因子(VEGF)発現の増大が認められ、血管新生も観察されたが、op/opマウスではこれらいずれも明らかに低下していた。ゆえに、胃潰瘍治癒においてマクロファージは重要な役割を果たしていることが判明した。
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