研究概要 |
新生児低酸素性・虚血性脳症(HIE)は,周産期脳障害の主要な原因であり重篤な神経学的後遺症をもたらす.我々はHIEモデルラットの長期にわたる検討から,HIE処置9週目より緩やかに進行する組織損傷に加えて進行的な学習・記憶障害を引き起こすことを発見した.この脳損傷は,従来のadult ratsの脳虚血で生じる遅発性細胞死とは異なり,HIEに特有であることから,緩徐進行性脳損傷(slowly progressive brain damage ; SPBD, Neurosci Lett 376, 194-199, 2005)と名付けた.昨年度は,このSPBDに対する細胞治療を試みるために,胎児付属物の卵膜由来の間葉系幹細胞(MSC)の単離および同定を行い,脳性麻痺を含む周産期脳障害に対する新規治療戦略のための細胞ソースとしての可能性を示唆した.本年度は,卵膜由来MSCの特性をさらに詳細に調べた結果,卵膜由来MSCからはVEGFやHGFなどの血管新生因子を分泌していた.また,リンパ球増殖試験において,卵膜由来MSCはミオシン応答性T増殖反応を抑制したことから,卵膜由来MSCには免疫抑制作用を有することを明らかにした.以上の結果から,卵膜からは非侵襲的且つ大量にMSCを得ることが可能であり,また,新たな細胞活性作用を有することから,卵膜由来MSCは周産期脳障害に対する新規治療戦略のための細胞ソースとしての可能性が考えられる.
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