【目的】平成20年度の検討により、慢性透析患者ではLDL-コレステロール(LDL-C)や血清リン脂質(PL)値は減少していたが、PL酸化物を認識する抗体で測定した酸化LDL(ox-LDL)は正常人と同等であった。したがって、ox-LDL/LDL-C比は慢性透析患者で増加していた。血清中のPL酸化物は非常に不安定であり測定が困難だが、今年度は、透析患者の血清中PL酸化物濃度を直接定量した。 【方法】慢性透析患者11名において、12時間以上絶食後の空腹時に採血した。分離した血清をセラムチューブに分注し、窒素を充填したのちにすみやかに-80℃で凍結保存した。人血清中に最も多く存在する2種類のPL酸化物である1-paymytoyl-2-linoleoyl-glycero-3-phosphocholine monohydroperoxide(PLPC-00H)と、1-steatoyl-2-linoleoyl-glycero-3-phosphocholine monohydroperoxide(SLPC-00H)を測定した。内部標準物質としてPLPC-00HとSLPC-00Hを合成し、化学発光HPLC法で測定した(Hui SP et al.2003)。 【結果および考察】透析患者では、PLPC-00Hが218.8±108.3nM、SLPC-00Hが74.4±34.4nMであり、報告されている健常人の値のそれぞれ約2倍と著明に増加していた。血中のPLは、おもにLDLとHDLに存在するため、前年の結果を考慮すると、HDL分画にPL酸化物が著明に増加していることが示唆された。 【結論】慢性透析患者では、血清PLが低下しているにもかかわらず、高感度で正確な蛍光HPLCを用いた測定系により検出したPL酸化物は、健常参考値に比較して明らかに増加していた。
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