【目的】平成20-22年度の結果より、慢性透析患者ではLDL-コレステロール(LDL-C)や血清リン脂質(PL)値は減少しているが、高感度の蛍光HPLCを用いた測定系により検出したPL酸化物は増加し、LDLのコレステロールに対するPL酸化物の割合が高かった。今年度は、透析患者においてHDLの主要蛋白であるアポAIの酸化が亢進しているか検討した。 【方法】透析患者11名と健常者19名を対象とした。メチオニン残基が酸化されたアポAI(MetO^<86>とMetO^<112>を含む:アポA-I_<+32>)を、HPLCで精製してマウスに免疫した。このマウスより得たモノクローナル抗体(MOA-I)を使ったイムノアッセイ系により、酸化HDLを定量した。 【結果および考察】酸化HDLは、透析患者で4.7±3.5ng/mL、健常者で8.4±5.1ng/mLと両群には有意差に透析群で低かった(p<0.05)。これは、透析群でHDLが低下し、アポAIも低いことを反映していると考えられた。すなわち、HDLの蛋白部分の酸化は、亢進していなかった。平成21年度の検討では、透析患者ではHDL中の酸化PLが増加していることがわかった。これらより、HDL中の酸化PL増加は、HDL粒子そのものが酸化されたためではなく、LDLの酸化PLがHDLへ転送された結果ではないかと推定された。 【結論】慢性透析患者では、アポAIの酸化物の増加はなかった。透析患者では、LDLの酸化PLがHDLへ転送され、これがHDLの機能異常を引き起こすことが示唆された。
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