主要な生活習慣病として知られる糖尿病の合併症はいずれも全身性の細小血管障害によるものと考えられているがその血管障害の機序に関しては未だ判然としていない。これら血管障害の発症は血栓形成がそのトリガーであると考えられているが、最近、血栓形成において中心的役割を担う血小板の凝集能が糖尿病の患者において亢進していることが報告された。しかし外来受診において通常の血小板凝集能検査は煩雑であり、その亢進を適確に推測できるより利便性の高い指標の確立が求められている。糖尿病発症の早期より凝集能亢進を捉え、安全・確実な血小板機能の制御を実施することの重要性は血管障害の予防およびその治療、ひいては総国民医療費抑制の観点から論を待たないが、その手順は残念ながら確立されているとは言い難い。 今回、血小板の細胞内情報伝達機構の視点より、血小板凝集能亢進と最も相関が良く、普遍性の高い情報伝達物質を同定することおよび簡便かつ安定した測定検査法を確立することを目的とし、154例のII型糖尿病患者において解析し検討した。 その結果、血小板活性化物質であるコラーゲン刺激にp38 mitogen-activated protein (MAP)キナーゼのリン酸化レベルおよびp44/p42 MAPキナーゼのリン酸化レベルが血小板凝集能と著明に相関した。以上より、コラーゲン刺激によるp38 MAPキナーゼおよびp44/p42 MAPキナーゼの活性化が糖尿病患者の血小板凝集能亢進のマーカーとなることが明らかとなり、治療へ応用できる可能性が示唆された。
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