研究概要 |
S100A8, S100A9及びS100A8/A9は活性化好中球及びマクロファージが産生する急性炎症反応性タンパク質である.本タンパク質を大量に入手することは極めて困難であることから,リコンビナントS100A8及びS100A9を作製し,これらを用いてS100A8/A9を化学的に合成して本タンパク質の抗炎症性タンパク質としての機能的役割について検討してきた.これまでに,本タンパク質は炎症抑制効果を発揮することを報告したが,その効果が本タンパク質の濃度依存性に発揮されるのか,また本タンパク質による炎症抑制効果に対するメカニズムについてもほとんど明らかになっていなかった.本研究によって,本タンパク質の抑制効果は本タンパク質と炎症性サイトカインが直接結合hし,複合体を形成することにより炎症性サイトカイン活性を阻害することにより,抗炎症作用を発揮する可能性を示すことができた.また,本タンパク質の濃度依存性に抗炎症作用が発揮されることを免疫組織学的に示すことができた.しかし,その機序は明らかでないことから,我々はS100A8/A9の投与後24時間における肝組織中の炎症性サイトカインに対するmRNAの発現量を検討した.その結果,炎症性サイトカイン(TNF-α, IL-6, IL-1β)に対するmRNAは有意に抑制されていることが明らかになった.一般に,炎症反応の情報は炎症性サイトカインに対するレセプターもしくはToll様レセプターを介して伝達され,その結果,細胞内のNF-κBが活性化され核内に移行して炎症性サイトカインに対するmRNAの発現が誘導され,炎症反応が進行する.このような背景において,S100A8/A9による抗炎症作用のメカニズムは,本タンパク質が炎症性サイトカインに直接結合(複合体の形成)することによって情報伝達が阻害される可能性が考えられる.また,本タンパク質は核内にも存在することから,何らかの機序により本タンパク質の濃度依存的に炎症性サイトカインに対するmRNAの発現を抑制することにより,炎症性サイトカインの発現を間接的に抑制し炎症反応を制御する可能性が考えられた.
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