研究概要 |
前年度において,S100A8/A9が急性炎症期において炎症性サイトカイン(TNF-a, IL-6, IL-1b)と非特異的に結合し,過剰な炎症反応を制御すると同時に,間接的に炎症を抑制することを示すことができた.本年度は,炎症性サイトカインと同様,S100A8, S100A9及びS100A8/A9に非特異的に結合し炎症反応に関わっている血清タンパク質の精製と同定,さらにその臨床的意義について検討することを目指した.その結果,S100タンパク質に結合する数種類のタンパク質を質量分析法により同定することができた.そのうちの一つはフィブロネクチンであった.そこで,本タンパク質に対するELISAを構築し,肝移植後の患者血清に応用したところ,本タンパク質の変動はCRPと対照的な変動を示すことが明らかとなった.これは,フィブロネクチンが好中球に直接またはS100タンパク質を介して間接的に結合し,炎症部位まで運搬されることにより組織細胞の保護または炎症組織の修復のために消費される結果であると考えられた.すなわち,好中球またはマクロファージは通常の免疫学的機能に加えて,その補助役としての機能に深く関与していることが強く示唆された.このように,フィブロネクチンの血清中の動態,あるいは好中球への結合状態を把握することにより,炎症疾患の病態を間接的に把握する診断システムの可能性を示すことができた.一方,その他の結合タンパク質として,アンチトロンビンIIIなど血液凝固系の因子と結合することを明らかにしたことから;移植後に多かれ少なかれ起こるDIC現象に深く関わっている可能性が強く示唆されたことから,平成22年度はDIC現象に対してS100タンパク質がいかに関わっているかを明らかにすることを目指している.
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