研究概要 |
全身性エリテマトーデス(SLE)では、アテローム性動脈硬化症に起因する脳血管障害や虚血性心疾患は死因の上位を占める重篤な合併症であり、その発症機序の解明と危険因子の特定は極めて重要である。 申請者らは、SLE患者の中でも抗リン脂質抗体症候群(APS)を合併する症例で動脈硬化性疾患の発症率が有意に高いことに着目し、動脈硬化性病態の発症・伸展に抗リン脂質抗体がどのような影響を及ぼすのか検討した。SLE患者血漿および健常人血漿より純化・精製したIgG抗体(APS由来IgG8例,non-APS由来IgG6例,健常人由来IgG6例)を用いて、正常単球培養細胞を刺激し、(1)細胞内における組織因子(TF)および炎症性サイトカイン(TNF-α・IL-1β)のmRNA発現量をリアルタイムRT-PCR法にて定量、(2)細胞表面TFの発現量をフローサイトメトリーにて定量、(3)培養上清中TNF-α・IL-1β・IL-6濃度をELISAにて定量した。その結果、APS由来IgG抗体は、単球の細胞内TF・TNF-α・IL-1βのmRNA発現量を有意に増加さ、細胞表面TFの発現および培養上清へのTNF-α・IL-1β・IL-6産生を惹起することを明らかにした。これらの作用は、non-APS由来IgGおよび健常人由来IgGでは認められず、抗リン脂質抗体が単球を活性化させ、細胞表面TFの発現や種々の炎症性サイトカインの産生を促す可能性が示唆された。さらに、APS患者の単球表面TF発現率および血中TNF-α濃度を健常人と比較した結果、いずれもAPS患者で有意に高く、特に虚血性心疾患発症患者で血中TNF-α濃度が著しく増加していた。 一連の成績より、SLE患者の中でもAPSを合併した症例では、TF依存性の血栓形成作用とサイトカイン誘発性の炎症増幅作用が合い重なって、動脈硬化性疾患が発症・伸展すると推測される。
|