全身性エリテマトーデス(SLE)は、彩な自己抗体の出現と多臓器病変を特徴とする代表的な全身性自己免疫疾患である。SLE患者に認められる病態の中でも、脳血管障害や虚血性心疾患など動脈血栓塞栓症は重篤な合併症であり、その発症機序の解明は極めて重要である。本研究では、SLE患者血中に高率(約40%)に出現する抗リン脂質抗体が、末梢血単核球の組織因子(TF)発現や炎症性サイトカイン産生にどのような影響を及ぼすのか検討し、動脈血栓塞栓症発症との関連性を統計学的に解析した。 SLE患者血漿および健常人血漿より純化・精製したIgG抗体を用いた正常単核球培養細胞刺激実験の成績から、(1)抗リン脂質抗体が正常単球の細胞表面TF発現を異常亢進させること、(2)抗リン脂質抗体が正常単球からの炎症性サイトカイン(TNF-α・IL-1β・IL-6)の産生を増幅させること、(3)抗リン脂質抗体によるTF発現やTNF-α産生のシグナル伝達経路としてp38 MAPKのリン酸化が関連していることなどを明らかにした。 さらに、実際のSLE患者および健常人を対象とした臨床研究により、(1)抗リン脂質抗体陽性のSLE患者では抗リン脂質抗体陰性のSLE患者や健常人に比較して末梢血単球表面のTF発現が明らかに亢進していること、(2)抗リン脂質抗体陽性SLE患者では血中TNF-α濃度が有意に高いこと、(3)末梢血単球表面のTF発現が亢進しているSLE患者では、TF発現が正常域のSLE患者に比較して動脈血栓塞栓症の発症率が明らかに高いことなどを明らかにした。 本研究の知見より、抗リン脂質抗体陽性SLE患者では、抗体の慢性的な刺激により、単球表面TFの発現やTNF-αの産生が亢進し、TF依存性の血栓形成やサイトカイン誘発性の炎症反応が増幅されることにより、脳血管障害や虚血性心疾患などの動脈血栓塞栓性病態が発症・進展すると推測される。
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